GX用語解説:損失と損害
損失と損害(Loss and Damage)とは
損失と損害(Loss and Damage)とは、気候変動の悪影響によってすでに発生してしまった、緩和(排出削減)や適応(備え)では防ぎきれない損失・損害を指す国際的な概念です。海面上昇による国土の喪失、干ばつによる農業被害、異常気象による人命・インフラの損失など、気候変動の悪影響に対して特に脆弱な途上国・島嶼国が、先進国に対して財政支援を求める文脈で用いられてきた歴史があります。
結論から言えば、損失と損害は「緩和と適応の努力をもってしても避けられなかった、気候変動の”最後のツケ”をどう手当てするか」という国際的な議論の枠組みです。2022年のCOP27において、これに対応するための国際的な資金支援の仕組み「損失と損害基金」の設立が画期的な合意として成立し、2023年のCOP28で本格的に稼働が開始されました。
この記事の要点
- 損失と損害=気候変動の悪影響で、緩和・適応では防ぎきれずすでに発生した損失・損害を指す概念。
- 気候変動に脆弱な途上国・島嶼国が、先進国に対して財政支援を求める文脈で発展してきた。
- 2022年COP27で「損失と損害基金」の設立が合意され、2023年COP28で本格稼働が開始。
- 気候変動対策の「緩和」「適応」に続く”第3の柱”として位置づけられるようになった。
- 先進国・途上国間の資金拠出負担を巡る議論が継続しており、国際的な資金拠出の枠組みは発展途上。
実務での使われ方
損失と損害は、直接的に個々の企業の実務対応を求めるものではありませんが、気候変動対応を巡る国際的な資金の流れや政治力学を理解するうえで重要な背景知識です。先進国政府や大手金融機関の中には、損失と損害基金への拠出を通じて、気候変動対応の国際貢献を統合報告書やサステナビリティ報告書でアピールする動きも出てきています。
また、サプライチェーンが気候変動に脆弱な地域(島嶼国、干ばつ多発地域等)に及ぶ企業にとっては、損失と損害を巡る国際的な議論の進展が、将来的な調達リスクや事業継続リスクの評価材料としても参考になります。
詳細説明
緩和・適応との関係(気候対策の3本柱)
気候変動対策は伝統的に「緩和(Mitigation)」(GHG排出削減による原因対策)と「適応(Adaptation)」(気候変動の影響への備え)の2本柱で語られてきましたが、緩和・適応の努力をもってしても防ぎきれない被害が現実に発生していることを受けて、「損失と損害」が第3の柱として国際交渉の場で明確に位置づけられるようになりました。パリ協定の条文にも損失と損害への言及が含まれています。
損失と損害基金の枠組み
2022年のCOP27で設立が合意された「損失と損害基金」は、当初は世界銀行を暫定的な運営主体とし、気候変動の悪影響に特に脆弱な途上国を対象に資金支援を行う枠組みとして設計されました。2023年のCOP28では、複数の先進国から初期の資金拠出が表明され、実際の資金配分に向けた運営体制の整備が進められています。ただし、必要とされる支援規模に対して拠出額はまだ限定的であり、今後の交渉の焦点となっています。
中堅企業の最初の3歩
第一に、自社のサプライチェーンや取引先が、気候変動に特に脆弱とされる地域(島嶼国、干ばつ多発地域等)に及んでいないかを確認します。第二に、そうした地域への依存度が高い場合、将来的な事業継続リスクとして評価に組み込みます。第三に、国際的な気候変動交渉(COP)の動向を、直接の規制対応とは別に、事業リスクの先行指標として継続的に把握します。
緩和(排出削減) / 適応(影響への備え) / 損失と損害(すでに生じた被害への対応)
出典:UNFCCC「COP27決定文書」(2022年)
FAQ
Q1. 損失と損害とは何ですか?
気候変動の悪影響によって、緩和や適応では防ぎきれずすでに発生してしまった損失・損害を指す国際的な概念です。
Q2. 損失と損害基金とは何ですか?
2022年のCOP27で設立が合意された、気候変動に脆弱な途上国への資金支援を行う国際的な基金です。2023年のCOP28で本格稼働しました。
Q3. 緩和・適応とはどう違いますか?
緩和は排出削減による原因対策、適応は影響への備えを指しますが、損失と損害はそれでも防ぎきれなかった被害への事後対応を指します。
Q4. 企業に関係しますか?
気候変動に脆弱な地域にサプライチェーンが及ぶ企業にとって、将来的な調達・事業継続リスクの評価材料として参考になります。
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