求人5.87倍・育成未実施92.6%。GX人材は採るより組み立てる。専任約1,500万円を避け、兼任エース+外部委託+リスキリング助成金75%の三層で、経営者が押さえる5つの視点と4つの落とし穴を整理。
GX人材は、採用して抱え込む「資産」ではありません。中堅・中小にとっては、取引を続けるために最小コストで処理すべき「固定費」です。専任を1名採れば初年度は約1,500万円、算定の外部委託は年50から100万円で、5から10倍の差がつきます。だから結論は一つ、採るな・抱え込むな、機能を組み立てろ。本記事は、経営者が押さえる5つの視点と、踏むと損をする4つの落とし穴を、一次情報と公的統計で整理します。
この記事の要点
- GX人材は採用・育成する「資産」ではなく、取引継続のための「固定費」。目的は最小コストでの充足。
- 専任1名は初年度約1,500万円、算定の外部委託は年50から100万円。5から10倍の差がつく。
- 現実解は三層構造(兼任エース1名と外部スポット 月10から30万円とリスキリング助成金75パーセント)で年300から550万円。取引先要請の約8割をカバー。
- 規制(GX-ETS)はほぼ来ない。効くのは取引先要請(中小の21.3パーセントが経験)と2028年度開始の化石燃料賦課金。
- 踏むと損をする4つの落とし穴は、専任採用に走る・育成で止まり流出を放置・資格イコール即戦力の幻想・順番を間違える。
1. なぜ今、中堅企業の経営者がGX人材を「知る」必要があるのか
「GXを進めたいが、専門人材がいない」。多くの中堅・中小経営者がそう悩み、専任の採用や育成に走ります。なぜ今この知識が避けて通れないのか、まず労働市場と制度の事実から確認します。
採れない、GX人材は需給が崩れている
はじめに労働市場の事実です。GX関連の求人は2016年度から2022年度で5.87倍に増えた一方、転職者は3.09倍にとどまり、足元の充足率は1割未満です。GX人材の現存数は約254万人で、就業者全体の8.5パーセントにすぎません。川崎重工や三菱重工はGX人材を各200名規模で採用しており、報酬の高い大企業が人材を吸い上げています。GX人材の相場は非管理職でも年収600万円で、中小製造業の平均400から500万円台とは100から200万円の差があります。報酬で大企業と勝負しても勝てません。
規制は来ない。だが「取引」と「コスト」が先に来る
次に制度の事実です。排出枠の保有を義務づけるGX排出量取引制度(GX-ETS)は2026年度に本格稼働しました(改正GX推進法は2026年4月施行)。ただし直接の義務対象は、自社の直接排出(Scope1)が前年度までの3年度平均で年10万トン以上の大規模事業者が中心で、従業員50から300名の企業はほぼ非対象です。本当に効くのは規制ではありません。取引先からのCO2排出量の要請(中小の21.3パーセントが経験)と、2028年度から始まる化石燃料賦課金(輸入する化石燃料のCO2量に応じ国が課す負担金。2028年度開始)によるコスト上昇です。怯える相手を間違えてはいけません。
GX Times Labの見方は「採る資産でなく、組み立てる機能」
ここでGX Times Labは、中堅・中小にとってのGX人材を「採用・育成する資産」ではなく「取引継続のための固定費」と位置づける。固定費なら、目的は最小コストでの充足であって、立派な体制づくりではない。結論はこうだ。人を雇うのではなく、取引先要請に応える「機能」を、兼任と外部の組み合わせで組み立てよ。GX人材は「採るか・育てるか」ではなく「どの機能を・いくらで・誰に持たせるか」の経営判断であり、最もコストの高い誤解は「とにかく専任を採れば安心だ」である。
2. 中堅企業がGX人材で踏みやすい4つの落とし穴
動き出す前に、よくある失敗の型を押さえます。いずれも一次情報と公的統計で裏づけられた、現実に起きうる落とし穴です。共通するのは、GX人材を「人事のジャンル」として眺め、コストと取引から目を離してしまう点です。
落とし穴1、とにかく専任を1名採る
ほとんどの中堅・中小で過剰投資になります。日本の大企業でもサステナビリティ最高責任者(CSO、脱炭素や環境対応を統括する役員)の専任設置率は12.4パーセントにとどまり、中小はほぼ専任なしの兼務が7割超です。非管理職でも年収600万円、社保や紹介手数料込みで初年度は約1,500万円。CO2排出量の算定は年1回程度の作業量で、専任のフル稼働を正当化できません。外部委託(年50から100万円)の5から10倍を払って、成果は同等以下になりがちです。
落とし穴2、育てれば足りると流出を放置する
育てた人材は、放置すれば流れます。研修で市場価値が上がった人材は、年収差100から300万円を埋められない中堅企業から大手やコンサルへ転職しがちです。評価・登用の仕組みを整備できている中小は41.9パーセントしかありません。エース1名にすべてを背負わせる設計は、その1人が辞めた瞬間に機能が止まります。育成は「人を残す」のではなく「機能を社内に残す」発想で組む必要があります。
落とし穴3、資格を取れば即戦力と考える
資格は基礎リテラシーの証明にすぎません。入門的な検定(GX関連の基礎知識を問う民間試験)の合格率は概ね8割前後で、取得できるのは基礎の理解レベルです。一方でサプライチェーン排出量(Scope3)の算定、CDP(企業の気候情報開示プラットフォーム)への回答、SBT(Science Based Targets)(企業の削減目標を科学的根拠に基づき国際認定する枠組み)の申請には、別途の実務経験が要ります。資格取得イコール即戦力は幻想です。
落とし穴4、順番を間違える、専任を先に採る
順番を外すと資金が詰まります。先に専任を約1,500万円で採ると、兼任エースと外部スポットと助成金という安い選択肢を試す前に固定費が膨らみます。本来の順は、兼任で機能を持たせ、難所を外部に出し、研修費を補助金で取り戻す。三層構造なら総コスト年300から550万円で取引先要請の約8割をカバーできます。高い手段から手を付けるのが、最大の損失です。
GX Times Labの結論はこうだ。専任という看板や資格という肩書で動くな。機能を3層に分け、安く済む順に埋め、人ではなく機能を社内に残せ。この順序を外した瞬間、最も安い選択肢(兼任と外部と助成金)を逃し、最も高い投資(専任採用)で資金を縛ることになる。GX人材は人事ではなく、損益と順番の問題だ。
3. 自社に効く制度・補助金の全体像
GX人材の制度は、ばらばらの専門用語の暗記ではありません。「圧力の層(なぜ体制が要るか)」と「支援の層(どう自己負担を下げるか)」の2層に分けると、自社に何がどう効くかが見通せます。順に整理します。
圧力の層は、GX-ETS・取引先要請・各賦課金
まず、なぜ体制が要るのかを決める制度です。GX-ETSの直接義務はScope1(自社の直接排出)が大きい多排出の大企業が中心ですが、そのサプライチェーン排出量(Scope3、その他の間接排出)対応が、取引先要請として中小に降りてきます。取引先からCO2の把握・削減を要請された中小はすでに21.3パーセント、約2割です。さらに再エネ賦課金(再生可能エネルギー普及費を電気料金に上乗せする国の負担金。年々上昇)と2028年度開始の化石燃料賦課金が、電気・燃料の価格を通じて固定費を押し上げます。なお発電事業者には2033年度から有償オークション(排出枠の一部を有償で競り落とさせる仕組み。特定事業者負担金)も始まります。だから要るのは、規制対応の専任ではなく、取引先要請に数字で答えられる最小限の機能です。
支援の層は、リスキリング助成金・税制・外部委託
次に、実質コストを下げる公的支援です。研修には人材開発支援助成金(従業員の脱炭素関連スキル習得などの研修費を国が補助する制度。事業展開等リスキリング支援コース)があり、中小なら経費の75パーセントに加え、訓練中の賃金も1時間あたり1,000円が助成されます(2025年度改定で960円から増額)。設備や体制づくりの周辺投資には、設備投資の税負担を軽くするCN投資促進税制(脱炭素や生産性向上の設備投資に税額控除等を認める税制。カーボンニュートラル投資促進税制)を重ねられる場合があります。そして算定・開示・申請の実務は、無理に内製せず外部委託(伴走型で年50から100万円弱、クラウドツールのみなら年数万から10万円)に出すのが、専任採用より圧倒的に安く済みます。難所だけ外部の専門家にスポットで任せ、自社は兼任エースで回す。これが支援の層の使い方です。
- GX-ETSと取引先要請:直接義務は多排出の大企業が中心。中堅・中小は取引先要請(21.3パーセント)で間接波及。規制でなく取引継続の条件で、データを出せる体制が受注の前提に。
- 再エネ賦課金・化石燃料賦課金:電気・燃料価格を通じて固定費が確実に上昇(2028年度から)。賦課金単価は変動するため、回収計算に将来の上昇を織り込む。
- リスキリング助成金(事業展開等コース):研修の経費を中小75パーセントと賃金1,000円/時間で圧縮。訓練計画届は開始6か月前から1か月前に提出、遡及不可。
- 外部委託(算定・開示・申請):年50から100万円弱で実務を代替。専任採用の5から10分の1。難所だけスポットで、内製にこだわらない。
出典:GX排出量取引制度(GX-ETS)本格稼働は2026年度・義務対象は直接排出 前年度までの3年度平均で年10万トン以上・改正GX推進法は2026年4月施行、経済産業省 排出量取引制度ページとDeloitte・Zeroboard・丸紅新電力・NAGASE等の複数独立解説が一致(検証済)。中堅・中小は基本的に直接非対象。化石燃料賦課金(炭素賦課金)は2028年度より化石燃料の輸入・採取事業者を対象に賦課(コストは電気・燃料価格に転嫁され全業種へ間接波及)、経済産業省と複数独立(検証済)。特定事業者負担金(有償オークション)は2033年度から発電事業者に排出枠の一部を有償割当。取引先からCO2把握・削減を要請された中小は21.3パーセント(約2割)、日本商工会議所・東京商工会議所「中小企業の省エネ・脱炭素に関する実態調査」2025年度(n=1,828)。リスキリング助成金は人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」中小の経費助成率75パーセント・賃金助成1,000円/時間(2025年度改定で960から1,000円)・1人あたり上限はコース時間別30万円(100時間未満)・40万円(100から200時間)・50万円(200時間以上)・訓練計画届は訓練開始6か月前から1か月前に労働局へ提出(遡及不可)・OFF-JT(通常業務を離れて行う研修)10時間以上が要件、厚生労働省制度と複数独立ベンダー解説が一致(検証済)。Scope1・2算定の外部委託は年50から100万円弱(伴走型)/クラウドツールのみ年数万から10万円、GHG算定費用比較等。外部コンサル年契約レンジは単一出所・複数社見積推奨のため数値を断定せず「数百万円から・要見積」の幅に留めた。CN投資促進税制の控除率・対象は年度・要件で変わるため適用は要確認。助成率・上限額・公募時期・施行日は変動するため、申請・採用判断の前に各省庁・各補助金の公式情報で必ず確認すること。投資判断は、補助や手当が乗った見かけ値ではなく、補助を剥いだ素の数字・自社の実額で組むこと。
最頻出の誤解は、補助金や資格を「あるから使う」と先に決めてしまうことです。補助金は自己負担を圧縮しますが、要らない専任を要るようにはしません。だからこそ、まず兼任エースで機能を持たせ、難所を外部委託に出し、残る研修費をリスキリング助成金で取り戻す、という順序が効きます。
4. 業種・規模別の「機能の組み立て方」
同じ「採るな・組み立てろ」でも、業種と規模によって最初に置く機能は変わります。鍵は「自社の取引先がどこまで要請してくるか」を見極め、そこに合う担い手を当てることです。ここを外して立派な専任を置くと、コストだけが膨らみます。
製造業/運送・物流/建設・不動産
製造業は、Tier1や大手OEMからのサプライチェーン排出量(Scope3)要請が最も早く来ます。まず経営企画や品質保証の課長級を兼任エースに据え、Scope1・Scope2の算定だけ外部委託に出すのが入口です。運送・物流は、荷主からの要請が中心で、燃料データの整理と報告体制を兼任で持てば足ります。建設・不動産は、元請やデベロッパーからの開示要請に備え、案件単位で外部の専門家をスポット起用します。共通点は、取引先からのCO2要請に数字で答えられる兼任と外部の体制が受注の前提になりつつあることです。要請の正体は、相手企業が自社のScope3を減らすために、仕入先である自社のデータを必要としていることだからです。
規模別は、小さいほど「専任より兼任と外部」
規模が小さいほど、専任は重荷になります。従業員50から100名なら、専任1名の固定費(初年度約1,500万円)を1人のGX担当に張り付けるより、兼任エース1名と外部スポット(月10から30万円)とリスキリング助成金75パーセントの三層で、年300から550万円に収めるのが現実解です。100から300名でも、専任化は取引先要請が常時発生する段階まで待つべきです。SBT認定企業に占める中小の割合は81.7パーセントにのぼり、中小でも取り組み自体は進みますが、担い手は「採る」より「組み立てる」が正解です。まず兼任エースを1名決めることなら、今日から着手できます。
大企業はGX人材を囲い込んでいる。川崎重工と三菱重工は、それぞれ200名規模でGX人材を採用した。これは中堅・中小が「採れない」構造の、そのままの裏返しだ。同じ労働市場で、潤沢な報酬を出せる大企業に人は集まり、年収400から500万円台が相場の中小には回ってこない。足元の充足率は1割未満で、GX人材の現存数は約254万人、就業者の8.5パーセントにすぎない。採用で勝とうとすること自体が、勝ち目のない勝負だ。だから中堅企業の打ち手は、採用ではなく、兼任と外部で機能を組み立てることにある。
出典:川崎重工・三菱重工がGX人材を各200名規模で採用、経済産業省「GX人材確保 関連事例集」2024。GX求人増加倍率5.87倍(2016から2022年度)・充足率1割未満、リクルートワークス研究所2023/日経転職版。GX人材の現存数 約254万人(就業者の8.5パーセント)、デロイト トーマツ グループ2024-10-31公式リリース。記事化・公開時に各原本で再照合。
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無料登録はこちら5. 「採用」と「組み立て」の損益を比べる見立て方
体制を決めるかどうかは「人がいると安心だから」ではなく「何にいくらかかり、取引をいくら守るか」で判断します。鉄則は、専任採用と三層構造の総コストを並べ、安い順に機能を埋めることです。数値と判断軸まで、ここで整理します。
総コスト比較は「専任1名 約1,500万円」対「三層 年300から550万円」
金額の差は桁で出ます。専任を1名採ると、初年度の総コストは約1,500万円(年収600から800万円、法定福利約15パーセント、人材紹介手数料 年収の30から40パーセント一括、研修)、2年目以降も年1,200万円規模が続きます。一方、三層構造、つまり兼任課長を業務量40パーセントで案分(約300万円)、研修(約22.5万円)、外部スポット月15万円(年180万円)、資格手当(約48万円)なら、合計は年約550万円です。これで取引先要請の約8割をカバーできます。さらにリスキリングは、中小100名・20名かける40時間・1人15万円(計300万円)の研修でも、経費助成75パーセントで約225万円、賃金助成で約80万円が戻り、実質負担はほぼゼロです。同じ「GX人材コスト」でも、組み立て方で2から3倍違います。
- 三層構造(兼任と外部と助成金):年300から550万円で要請の約8割をカバー。まずこれ。兼任エースを1名決めるのが起点。
- リスキリング(研修300万円の例):経費助成75パーセントと賃金助成で実質負担ほぼゼロ。計画届を開始1から6か月前に、遡及不可。
- 専任採用(1名):初年度約1,500万円、2年目以降 約1,200万円。要請が常時化するまで待つ。多くは過剰。
- 判断軸:取引先要請の確度かける自社が払える固定費かける補助率の3点掛け。人材のスペックでは決めない。
判断軸は「人材のスペック」でなく「取引かける固定費かける補助率」
もう1つの要点は、判断軸です。GX Times Labがはっきり言い切るのは、判断軸は人材の経歴や資格ではなく「取引先要請の確度かける自社が払える固定費かける補助率」の3点掛けだという点です。取引を守るために必要なら、外部スポットの費用も「保険料」として正面から稟議に乗せます。逆に、取引先要請がまだ常時化していない段階で専任を採るのが、最も大きな損失です。採るな・組み立てろ。安い順に機能を埋め、難所だけ外部に出す。そして取引喪失の機会損失、つまり取引先1社(売上3億円)を失えば粗利は約3,000から9,000万円消える計算で、これは6から15年分のGX人材コストに相当します、まで視野に入れて、体制への支出を判断します。ただし試算の各係数は標準値のため、自社の実額で組み直してください。
6. 公開データに学ぶ、機能の組み立て方の型
中堅・中小の「GX人材で成功した」実名事例は、一次公開情報として極めて乏しいのが現実です。だからこそ参考になるのは、公開データと公的事例に共通する型です。看板の立派さではなく、コスト構造・体制・着手順という事実から、自社で再現できる型を引き出していきます。
「兼任と外部」が効いた型は、専任を採らずに要請をさばく
最初の型は「採らない」です。日本の大企業でもCSO専任設置率は12.4パーセントにとどまり、専任なし兼務と1から3人体制の合計は7割超を占めます。製造Tier2(150名・売上40億円)の試算では、専任採用が初年度約1,500万円かかるのに対し、兼任課長と外部スポットと資格手当の組み立ては年約550万円で、取引先要請の約8割をカバーします。差は約950万円です。共通するのは、専任という看板を捨て、兼任で機能を持たせ、難所だけ外部に出している点です。「採らない」ことが、最も安く要請をさばく一手になります。
「助成金で研修」が効いた型は、実質負担ほぼゼロで内製化
次の型は「補助金で育てる」です。リスキリング助成金の試算には、中小100名・20名かける40時間・1人15万円(計300万円)の研修に対し、経費助成75パーセントで約225万円、賃金助成で約80万円が戻り、実質負担ほぼゼロ(差引約マイナス5万円)で全額回収圏という型があります。研修で社内に基礎リテラシーが広がれば、外部委託の範囲を難所だけに絞れます。一方で注意点もあります。評価・登用の仕組みを整備できている中小は41.9パーセントしかなく、育てた人材を処遇で引き留められなければ流出します。共通するのは、助成金で安く育て、人ではなく機能を社内に残す設計にしている点です。各社の確定値は各資料の原本で確認すべきため、本記事では公開された事実と試算の範囲で示します。
育成は、ほとんどの中小でできていない。GX人材の育成が「十分にできている」と答えた中小はわずか0.5パーセントで、「全くできていない」「あまりできていない」の合計は92.6パーセントにのぼる。一方、評価・登用の仕組みを整備できている中小は41.9パーセントにすぎない。裏を返せば、特定個人に依存しない兼任ネットワーク型の体制を、助成金75パーセントを使って最小コストで組むだけで、9割の企業より前に出られる。立派な専任部署は要らない。要るのは、誰か1人が辞めても止まらない機能設計と、研修費を国が7割返す制度の使い方だ。
出典:GX人材育成「十分にできている」0.5パーセント/「全くとあまりできていない」92.6パーセント、フォーバル「中小企業GXに関する実態調査」2023-08(やや古・記事化時に再調査有無を確認)。評価・登用の仕組みを整備できている中小は41.9パーセント、AKKODiSコンサルティング/商工中金。リスキリング助成金 中小75パーセントと賃金1,000円/時間、厚生労働省 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)。記事化・公開時に各原本で再照合。
活用の型に共通するのは「専任を採らず兼任で機能を持たせる、難所を外部に出す、研修費を助成金で取り戻す」の順序を守った点です。逆に、要請が常時化する前に専任を採ると、第2章で見た落とし穴を踏みます。中堅企業のGX人材は、特別な人材ではなく、機能を組み立てる規律で差がつきます。
7. よくある質問
従業員100名規模の中堅企業に、GXの専任担当者は必要ですか。
結論から言えば不要です。日本の大企業でもサステナビリティ最高責任者(CSO、脱炭素や環境対応を統括する役員)の専任設置率は12.4パーセントにとどまり、中小はほぼ専任なしの兼務が7割超です(HRガバナンス・リーダーズ2024/ブルードットグリーン)。GX担当の中途採用は非管理職でも年収600万円、社会保険料や紹介手数料を含めると初年度は約1,500万円かかる試算です。一方でCO2排出量の算定は年1回程度の作業量で、専任のフル稼働を正当化できません。GX Times Labの結論は、人を雇うのではなく機能を組み立てよ、です。兼任エース1名と外部委託(年50から100万円)を組み合わせれば、専任採用より安く同等以上の成果が出ます。
GX人材を中途採用すると、総額でいくらかかりますか。
専任を1名採用すると、初年度の総コストは約1,500万円が目安です。内訳は、年収600から800万円に、法定福利費(約15パーセント)、人材紹介手数料(年収の30から40パーセントを一括)、研修費が積み上がるためです(GX Times Lab試算・各係数は標準値)。2年目以降も年1,200万円規模が続きます。これに対し、自社の直接排出(Scope1)と電気・熱由来の間接排出(Scope2)の算定を外部に委託すると年50から100万円弱、クラウドツールのみなら年数万から10万円です。GX Times Labの見立てでは、専任採用は外部委託の5から10倍を払って成果は同等以下になりがちで、ROIが成立しません。
中堅企業がGX人材を採用するのは、そもそも現実的ですか。
報酬で大企業と競うのは現実的ではありません。GX関連の求人は2016年度から2022年度で5.87倍に増えた一方、転職者は3.09倍にとどまり、足元の充足率は1割未満です(リクルート2023/日経転職版)。川崎重工や三菱重工はGX人材を各200名規模で採用しており(経済産業省 GX人材確保 関連事例集2024)、大企業が人材を囲い込む裏返しで中堅・中小は採れません。GX人材の相場は非管理職でも年収600万円で、中小製造業の平均400から500万円台とは100から200万円の構造的な格差があります。GX Times Labの結論は、採るな・抱え込むな、機能を組み立てろ、です。
リスキリングの助成金は本当に75パーセント出るのですか。
条件を満たせば、中小企業は経費の75パーセントが助成されます。人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コース(従業員の脱炭素関連スキル習得などの研修費を国が補助する制度)は、中小の経費助成率75パーセントに加え、訓練中の賃金も1時間あたり1,000円が助成されます(2025年度改定で960円から増額)。1人あたりの上限はコース時間別で、100時間未満30万円・100から200時間40万円・200時間以上50万円です。注意点は、訓練計画届を訓練開始の6か月前から1か月前に労働局へ提出する必要があり、後からの遡及はできないことです。GX Times Labの見立てでは、研修は補助金を使えば実質負担ほぼゼロで回収できる数少ない投資です。
費用をかけて育てた人材が辞めてしまうのが怖いです。
流出を恐れるなら、特定の個人に依存しない設計にするのが答えです。研修で市場価値が上がった人材は、年収差100から300万円を埋められない中堅企業から大手やコンサルへ流れがちで、評価・登用の仕組みを整備できている中小は41.9パーセントしかありません(AKKODiS/商工中金)。だからこそGX Times Labは、エース1名に背負わせる体制をやめ、経営層直下に置いた兼任エースと現場アンバサダーのネットワーク型にすべきだと考えます。スキルを社内に分散させ、算定や開示の実務は外部スポット(月10から30万円)に出しておけば、誰か1人が辞めても機能は止まりません。人ではなく機能を会社に残すのが、流出対策の本質です。
取引先からCO2排出量やScope3への協力を求められたら、誰がどう対応すべきですか。
専任を置く前に、まず兼任エース1名で自社のScope1・2を測ってください。取引先要請の正体は、相手企業がサプライチェーン排出量(Scope3)を減らすために、仕入先である自社の数値を必要としていることです。求められるのは多くの場合、自社の直接排出(Scope1)と電気・熱由来の間接排出(Scope2)で、無料の見える化ツールや外部委託(年50から100万円)で対応できます。実際、取引先からCO2の把握・削減を要請された中小は21.3パーセント、約2割にのぼります(日商・東商『中小企業の省エネ・脱炭素に関する実態調査』2025年度)。GX Times Labの見立てでは、この要請対応は環境活動ではなく取引維持そのものであり、データを出せる体制が受注の前提条件になりつつあります。
GX検定や脱炭素アドバイザーなどの資格を取れば、即戦力になりますか。
資格は基礎リテラシーの証明であって、即戦力の保証ではありません。入門的な検定(GX関連の基礎知識を問う民間試験)の合格率は概ね8割前後で、取得できるのは基礎の理解レベルにとどまります。一方でサプライチェーン排出量(Scope3)の算定、CDP(企業の気候情報開示プラットフォーム)への回答、SBT(Science Based Targets、科学的根拠に基づく削減目標)の申請には、別途の実務経験が必要です。GX Times Labの結論は、資格取得イコール即戦力は幻想だ、です。中堅企業はまず兼任エースに基礎リテラシーを持たせ、申請や算定など難所だけ外部の専門家にスポットで任せるのが、最も費用対効果の高い組み立て方です。
2026年以降、中堅・中小へのGX人材の必要性はどう変わりますか。
規制で人を増やす必要はありませんが、取引対応の体制は前倒しで要ります。GX排出量取引制度(GX-ETS)は2026年度に本格稼働しますが、排出枠の保有を義務づけられるのは年10万トン以上を排出する大規模事業者が中心で、中堅・中小はほぼ直接対象ではありません。効いてくるのは、取引先からの排出量要請(すでに約2割)と、2028年度から始まる化石燃料賦課金(輸入する化石燃料のCO2量に応じ国が課す負担金)によるコスト上昇です。GX Times Labの見立てでは、取引先のどの要請に・誰が・いくらで対応するかを今のうちに決めておけば、専任を雇わずとも年300から550万円の機能設計で乗り切れます。慌てて採用するのが最も高くつきます。