GX用語解説:移行金融
移行金融(トランジションファイナンス)とは
移行金融(トランジションファイナンス)とは、鉄鋼・化学・電力・セメントなど、事業構造上すぐには脱炭素化が難しい多排出産業が、長期的な脱炭素移行(トランジション)に向けた取組みを進めるために必要な資金を調達する金融手法です。グリーンボンドが「今すでにグリーンな事業」への資金使途を前提とするのに対し、移行金融は「今はグリーンでなくても、将来に向けて移行しつつある事業」を資金使途として認める点が最大の違いです。
結論から言えば、移行金融は「脱炭素化に時間のかかる産業を、資金の面から見捨てない」ための仕組みです。日本は世界に先駆けてクライメート・トランジション・ファイナンスの基本指針を策定し、鉄鋼・化学等の分野別ロードマップを整備することで、この分野での国際的なルールメイキングを主導してきました。
この記事の要点
- 移行金融=多排出産業の長期的な脱炭素移行に必要な資金を調達する金融手法。
- グリーンボンドが「今グリーンな事業」向けなのに対し、移行金融は「移行過程にある事業」向け。
- 日本は世界に先駆けてクライメート・トランジション・ファイナンス基本指針を策定した実績を持つ。
- 調達手段としてトランジションボンドやサステナビリティリンクローンが活用される。
- 「グリーンウォッシュ」ならぬ「トランジションウォッシュ」を防ぐため、科学的根拠に基づく移行計画の開示が重視される。
実務での使われ方
鉄鋼業が高炉から電炉・水素還元製鉄への転換を進める際や、化学メーカーが原料転換・省エネ設備投資を行う際など、移行金融は多額の設備投資資金を確保する手段として活用されます。資金調達にあたっては、単に「脱炭素に取り組みます」という宣言だけでなく、科学的根拠に基づく削減目標・移行計画・進捗のモニタリング体制を示すことが投資家・金融機関から求められます。
中堅の製造業であっても、燃料転換や高効率設備への更新投資を行う際に、移行金融の考え方に沿った融資商品(トランジションローン等)を金融機関から提案されるケースが増えており、通常の設備投資融資よりも有利な条件を引き出せる可能性があります。
詳細説明
グリーンウォッシュならぬ「トランジションウォッシュ」への警戒
移行金融は、脱炭素化が難しい産業にも資金の道を開く重要な仕組みである一方、実態を伴わない「移行」を掲げて資金調達だけを行う「トランジションウォッシュ」のリスクも指摘されています。これを防ぐため、経済産業省・金融庁・環境省が策定した「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」では、(1)パリ協定と整合した戦略・ガバナンス、(2)事業のマテリアリティ、(3)科学的根拠のある移行経路、(4)投資家との対話・情報開示、という4つの要素を満たすことを求めています。
分野別技術ロードマップ
移行金融の実効性を担保するため、鉄鋼・化学・電力・ガス・石油・紙パルプ・セメント・海運・航空の9分野について、業界ごとに脱炭素化の技術的な道筋を示す「分野別ロードマップ」が策定されています。移行金融による資金調達を行う企業は、このロードマップに沿った技術導入計画を示すことで、調達の正当性を説明しやすくなります。
中堅企業の最初の3歩
第一に、自社の業種が分野別ロードマップの対象9分野に該当するかを確認します。第二に、燃料転換や設備更新の投資計画を、単なる更新ではなく「移行計画」として位置づけ直せないか検討します。第三に、取引金融機関にトランジションローン等の移行金融商品の取扱いがあるか問い合わせます。
戦略・ガバナンス/マテリアリティ/科学的根拠のある移行経路/投資家との対話
出典:経済産業省・金融庁・環境省
FAQ
Q1. 移行金融とは何ですか?
多排出産業が長期的な脱炭素移行に向けた取組みを進めるために必要な資金を調達する金融手法です。
Q2. グリーンボンドとの違いは?
グリーンボンドが「すでにグリーンな事業」向けであるのに対し、移行金融は「移行過程にある事業」への資金使途を認める点が異なります。
Q3. トランジションウォッシュとは何ですか?
実態を伴わない「移行」を掲げて資金調達だけを行う行為で、これを防ぐため科学的根拠に基づく移行計画の開示が求められます。
Q4. 中堅企業に関係しますか?
燃料転換や高効率設備への更新投資の際、通常の融資より有利な条件のトランジションローン等を活用できる可能性があります。
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