GX用語解説:物理リスク
物理リスクとは
物理リスクとは、気候変動そのものによって企業の資産・事業活動に直接生じる被害・損失リスクを指します。TCFD提言が気候関連リスクを「移行リスク」(脱炭素社会への移行に伴う規制強化・市場変化等のリスク)と「物理リスク」の2つに大別して以来、企業の気候リスク開示における中核的な分類概念として広く使われています。
結論から言えば、物理リスクは「気候変動が実際に工場や店舗、サプライチェーンをどう傷つけるか」を評価するリスクです。移行リスクが政策・市場の変化という「人為的な」リスクであるのに対し、物理リスクは台風・豪雨・熱波・海面上昇といった「自然現象そのもの」がもたらすリスクという点で、対応策の性質も大きく異なります。
この記事の要点
実務での使われ方
企業がTCFD開示を行う際、物理リスクの評価は「自社の生産拠点・物流拠点が、洪水・台風・熱波等によってどの程度の被害を受けうるか」をシナリオ分析を用いて定量化する作業を伴います。ハザードマップや気象庁・環境省が提供する気候予測データを活用し、拠点ごとの浸水リスク・水資源リスク等を評価する取組みが広がっています。
製造業では、自社工場の被災リスクだけでなく、原材料や部品を調達しているサプライヤーの拠点が自然災害の多い地域に集中していないかという「サプライチェーンの物理リスク」の評価も重要視されており、調達先の分散化(マルチソーシング)がリスク低減策として検討されています。
詳細説明
急性物理リスクと慢性物理リスク
物理リスクは、台風・豪雨・洪水・森林火災といった突発的な極端気象事象による「急性物理リスク」と、平均気温の上昇・海面上昇・降水パターンの変化といった長期的・持続的な変化による「慢性物理リスク」に分けられます。急性リスクは工場の操業停止や設備損傷といった短期的な被害をもたらす一方、慢性リスクは水資源の逼迫や労働環境の悪化(熱波による生産性低下等)など、より長期的な経営への影響として現れます。
シナリオ分析による評価
物理リスクの評価では、IPCCが示す複数の気候シナリオ(RCP・SSPシナリオ)のもとで、2030年・2050年時点における自社拠点の被災確率や被害額を試算するシナリオ分析が一般的な手法です。高排出シナリオ(現状の排出ペースが続く場合)と低排出シナリオ(パリ協定の目標が達成される場合)を比較することで、脱炭素の進展度合いによって物理リスクの深刻さがどう変わるかを示すことができます。
中堅企業の最初の3歩
第一に、自社の主要拠点(工場・倉庫・店舗)がハザードマップ上でどのようなリスク(洪水、土砂災害等)にさらされているかを確認します。第二に、主要な調達先の拠点立地が特定地域・特定国に集中していないかを確認します。第三に、BCP(事業継続計画)の中に、気候変動による物理リスクの視点を組み込みます。
急性物理リスク(台風・洪水等の突発的被害) / 慢性物理リスク(海面上昇・水ストレス等の長期変化)
出典:TCFD最終報告書(2017年)
FAQ
Q1. 物理リスクとは何ですか?
気候変動そのものによって企業の資産・事業活動に直接生じる被害・損失リスクです。TCFDが移行リスクと対で示す分類概念です。
Q2. 移行リスクとの違いは?
移行リスクが規制強化や市場変化等の人為的なリスクであるのに対し、物理リスクは台風・豪雨等の自然現象そのものによるリスクです。
Q3. どうやって評価しますか?
複数の気候シナリオのもとで、自社拠点の被災確率や被害額を試算するシナリオ分析が一般的な評価手法です。
Q4. 中堅企業は何を確認すればよいですか?
自社拠点のハザードマップ上のリスクと、調達先の立地の集中度を確認し、BCPに気候リスクの視点を組み込むことが有効です。
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