GX人材は「採用・育成する資産」ではなく「取引継続の固定費」。専任約1,500万円より、兼任エース+外部委託+リスキリング助成金75%の三層構造(年300〜550万円)が中堅・中小の現実解。
GX人材は、採用して抱え込む「資産」ではありません。中堅・中小にとっては、取引を続けるために最小コストで処理すべき「固定費」です。専任を1名採れば初年度は約1,500万円。一方、算定の外部委託は年50から100万円です。
本記事は、採用・育成・処遇・組織の全体像を、経営者の位置づけ・判断軸・市場動向として俯瞰する案内板です。結論は一つ、採るな・抱え込むな、機能を組み立てろ。
この記事の要点
- 専任1名の採用は初年度約1,500万円。GX人材は採用・育成する「資産」ではなく、取引継続のための「固定費」。
- 大企業でもCSO専任設置率は12.4パーセント、中小はほぼ専任なし兼務が7割超。専任採用はROIが成立しない。
- 現実解は三層構造(兼任エース1名と外部スポット 月10から30万円とリスキリング助成金75パーセント)。総コスト年300から550万円で取引先要請の約8割をカバー。
- GX-ETSは2026年度本格稼働だが、義務対象は年10万トン以上の大規模事業者中心で中堅・中小はほぼ対象外。効くのは取引先要請(すでに約2割)。
- 結論は「採るな・抱え込むな、機能を組み立てろ」。人を雇うのではなく機能を組み立てるCFO・経営マター。
中堅企業にとってのGX人材の位置づけ
「GXを進めたいが、専門人材がいない」。多くの中堅・中小経営者がそう悩みます。そして多くが、専任の採用や育成に走ります。ここでGX Times Labは、その出発点が間違っていると言い切ります。GX人材は「採用・育成する資産」ではなく、「取引継続のための固定費」です。固定費なら、目的は最小コストでの充足であって、立派な体制づくりではありません。
事実を押さえます。GX関連の求人は2016年度から2022年度で5.87倍に増えましたが、転職者は3.09倍にとどまり、足元の充足率は1割未満です。GX人材の相場は非管理職でも年収600万円で、中小製造業の平均400から500万円台とは100から200万円の差があります。報酬で大企業と勝負しても勝てません。だから結論はこうです。人を雇うのではなく、取引先要請に応える「機能」を、兼任と外部の組み合わせで組み立てる。これがGX人材を読む出発点です。
このカテゴリで扱うGX人材テーマの全体像
GX人材のテーマは、ばらばらの人事施策ではありません。中堅・中小が押さえる論点は、「いくらで、誰に、どの機能を持たせるか」という1本の線でつながっています。本カテゴリでは、次の5テーマを「人事の話」ではなく「コストと取引の話」として扱います。
- 採用の相場:専任を雇うと初年度約1,500万円。管理職952万円・非管理職600万円というGX人材の年収相場(Deloitte公式)と、自社が払える額の現実を突き合わせます。
- 育成とリスキリング:既存社員の学び直し(リスキリングは、今いる人材に脱炭素のスキルを習得させること)を、補助金で実質負担ほぼゼロに圧縮します。
- 外部活用:Scope1(自社の直接排出)・Scope2(電気・熱の間接排出)の算定や開示は、外部委託(年50から100万円)にスポットで出します。
- 組織と処遇:専任1名ではなく、経営層直下の兼任エースと現場アンバサダーのネットワーク型で、特定個人への依存と流出を防ぎます。
- 取引対応:取引先からのサプライチェーン排出量(Scope3)要請に、誰がどう答えるかの体制を先に決めます。
この5つは独立していません。外部委託で算定を回せば、専任採用は不要になり、その分を研修と取引対応に回せるからです。読む軸は一つ、「この施策は、取引の維持とコストにどう効くか」です。人材のスペックで考えると、迷子になります。
GX専任1名を採用した場合の初年度総コスト
約1,500万円 / 算定の外部委託なら 年50から100万円
出典:GX Times Lab/Genspark試算(年収600から800万、法定福利約15パーセント、人材紹介手数料 年収の30から40パーセント、研修。各係数は標準値)。外部委託相場はGHG算定費用比較。記事化・公開時に再照合。
GX人材体制を検討する際の判断フレームワーク
では、どう組み立てるのか。GX Times Labの結論は明快です。「採用か・育成か」で悩むのをやめ、機能を3つの層に分け、安く済む順に埋める。これが中堅・中小の現実解です。手順を示します。
- 兼任エースを1名置く。経営企画や品質保証の課長級に、業務量の30から40パーセントでGX機能を兼務させます。経営層直下に置くのが要点です。新規採用ではなく、社内の信頼ある人材を当てます。
- 難所は外部スポットに出す。算定・開示・申請といった専門実務は、外部委託(月10から30万円)に任せます。専任を雇うより圧倒的に安く、品質も安定します。
- 研修費は補助金で取り戻す。リスキリングは人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コース(脱炭素関連の研修費を国が補助する制度)で、中小なら経費の75パーセントが戻ります。実質負担はほぼゼロです。
この三層構造の総コストは年300から550万円。これで取引先要請の約8割をカバーできます。専任採用の約1,500万円と比べれば、差は歴然です。ここでGXTLがはっきり言い切るのは、判断軸は「人材のスペック」ではなく「取引先要請の確度かける自社が払える固定費かける補助率」の3点掛けだという点です。取引を守るために必要な機能だけを、最も安い担い手に持たせる。立派な専任体制は、ほとんどの中堅・中小にとって過剰投資です。人を雇うのではなく、機能を組み立てる。これがGX人材のCFO・経営マターとしての本質です。
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2026年は、GX人材の「採れなさ」と「要らなさ」が同時に進む局面です。第一に、需給は崩れています。GX人材の現存数は約254万人で、就業者全体の8.5パーセントにすぎません(デロイトトーマツ2024)。求人は増え続ける一方、充足率は1割未満で、報酬の高い大企業に人材が吸い上げられています。中堅・中小が採用で勝つ道は、ほぼ閉じました。
第二に、しかし規制が人材増を迫っているわけではありません。GX排出量取引制度(GX-ETS)は2026年度に本格稼働しますが、義務対象は年10万トン以上の大規模事業者が中心で、中堅・中小はほぼ直接対象外です。効くのは取引先からの要請で、CO2の把握・削減を求められた中小はすでに21.3パーセント、約2割です。第三に、足元の実態です。GX人材育成が「できていない」中小は92.6パーセント、評価・登用の仕組みを整備できている中小は41.9パーセントにとどまります。つまり、最小コストで機能を組み立てるだけで、大多数より前に出られます。慌てて専任を採るのではなく、兼任と外部で取引対応の体制を先に整える経営者が、最も安く勝ちます。なお年収統計・助成率・制度の施行時期は変動するため、採用や申請の前に各省庁・各調査の最新値を確認する必要があります。
GX人材育成が「できていない」中小企業
92.6パーセント /「十分にできている」はわずか0.5パーセント
出典:フォーバル「中小企業GXに関する実態調査」2023-08(やや古・記事化時に再調査有無を確認)。評価・登用の仕組みを整備できている中小は41.9パーセント、AKKODiSコンサルティング/商工中金。
出典:GX排出量取引制度(GX-ETS)本格稼働は2026年度(第2フェーズ、義務化へ移行)・義務対象は直接排出 前年度までの3年度平均で年10万トン以上の事業者(電力・鉄鋼・化学・セメント・石油・大手自動車等)・改正GX推進法は2026年4月施行、経済産業省 排出量取引制度ページとDeloitte・Zeroboard・丸紅新電力・NAGASE等の複数独立解説が一致(検証済)。中堅・中小は基本的に直接非対象。化石燃料賦課金(炭素賦課金)は2028年度より化石燃料の輸入・採取事業者を対象に賦課、経済産業省と複数独立(検証済)。GX人材の現存数は約254万人(就業者約3,000万人の8.5パーセント)/GX人材 管理職平均年収952万円・非管理職600万円、デロイト トーマツ グループ「GX人材に関する調査」2024-10-31公式リリース(一次)。GX求人増加倍率5.87倍/転職者増加倍率3.09倍(いずれも2016から2022年度)、リクルートワークス研究所2023-08。足元の充足率1割未満、日経転職版。川崎重工・三菱重工がGX人材を各200名規模で採用、経済産業省「GX人材確保 関連事例集」2024。取引先からCO2把握・削減を要請された中小は21.3パーセント(約2割)/マンパワー・ノウハウ不足を課題筆頭は56.5パーセント/CO2見える化(測定)実施は26.0パーセント、日本商工会議所・東京商工会議所「中小企業の省エネ・脱炭素に関する実態調査」2025年度(n=1,828)。GX人材育成「十分にできている」0.5パーセント・「全くとあまりできていない」92.6パーセント、フォーバル2023-08(やや古)。評価・登用の仕組みを整備できている中小は41.9パーセント/従業員300名以下でリスキリング予算100万円未満は78.5パーセント、AKKODiS/商工中金。日本大企業(TOPIX100)のCSO(Chief Sustainability Officer、サステナビリティ最高責任者)専任設置率は12.4パーセント、HRガバナンス・リーダーズ2024。専任なし兼務と1から3人体制の合計7割超、ブルードットグリーン。リスキリング助成金は人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」中小の経費助成率75パーセント・賃金助成1,000円/時間(2025年度改定で960から1,000円)・1人あたり上限はコース時間別30万円(100時間未満)・40万円(100から200時間)・50万円(200時間以上)・訓練計画届は訓練開始6か月前から1か月前に労働局へ提出(遡及不可)、厚生労働省制度と複数独立解説が一致(検証済)。GX専任中途採用 初年度総コスト約1,500万円超/兼任と外部活用モデル合計約550万円/年、GX Times Lab/Genspark試算(各係数は標準値・要見積)。Scope1・2算定の外部委託は年50から100万円弱(伴走型)/クラウドツールのみ年数万から10万円、GHG算定費用比較等。年収統計・助成率・制度施行日・対象社数は各省庁/Deloitte公式で、記事化・公開時に必ず再確認すること。
よくある質問
従業員100名規模の中堅企業に、GXの専任担当者は必要ですか。
結論から言えば不要です。日本の大企業でもサステナビリティ最高責任者(CSO、脱炭素や環境対応を統括する役員)の専任設置率は12.4パーセントにとどまり、中小はほぼ専任なしの兼務が7割超です(HRガバナンス・リーダーズ2024/ブルードットグリーン)。GX担当の中途採用は非管理職でも年収600万円、社会保険料や紹介手数料を含めると初年度は約1,500万円かかる試算です。一方でCO2排出量の算定は年1回程度の作業量で、専任のフル稼働を正当化できません。GX Times Labの結論は、人を雇うのではなく機能を組み立てよ、です。兼任エース1名と外部委託(年50から100万円)を組み合わせれば、専任採用より安く同等以上の成果が出ます。
GX人材を中途採用すると、総額でいくらかかりますか。
専任を1名採用すると、初年度の総コストは約1,500万円が目安です。内訳は、年収600から800万円に、法定福利費(約15パーセント)、人材紹介手数料(年収の30から40パーセントを一括)、研修費が積み上がるためです(GX Times Lab試算・各係数は標準値)。2年目以降も年1,200万円規模が続きます。これに対し、自社の直接排出(Scope1)と電気・熱由来の間接排出(Scope2)の算定を外部に委託すると年50から100万円弱、クラウドツールのみなら年数万から10万円です。GX Times Labの見立てでは、専任採用は外部委託の5から10倍を払って成果は同等以下になりがちで、ROIが成立しません。
中堅企業がGX人材を採用するのは、そもそも現実的ですか。
報酬で大企業と競うのは現実的ではありません。GX関連の求人は2016年度から2022年度で5.87倍に増えた一方、転職者は3.09倍にとどまり、足元の充足率は1割未満です(リクルート2023/日経転職版)。川崎重工や三菱重工はGX人材を各200名規模で採用しており(経済産業省 GX人材確保 関連事例集2024)、大企業が人材を囲い込む裏返しで中堅・中小は採れません。GX人材の相場は非管理職でも年収600万円で、中小製造業の平均400から500万円台とは100から200万円の構造的な格差があります。GX Times Labの結論は、採るな・抱え込むな、機能を組み立てろ、です。
リスキリングの助成金は本当に75パーセント出るのですか。
条件を満たせば、中小企業は経費の75パーセントが助成されます。人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コース(従業員の脱炭素関連スキル習得などの研修費を国が補助する制度)は、中小の経費助成率75パーセントに加え、訓練中の賃金も1時間あたり1,000円が助成されます(2025年度改定で960円から増額)。1人あたりの上限はコース時間別で、100時間未満30万円・100から200時間40万円・200時間以上50万円です。注意点は、訓練計画届を訓練開始の6か月前から1か月前に労働局へ提出する必要があり、後からの遡及はできないことです。GX Times Labの見立てでは、研修は補助金を使えば実質負担ほぼゼロで回収できる数少ない投資です。
費用をかけて育てた人材が辞めてしまうのが怖いです。
流出を恐れるなら、特定の個人に依存しない設計にするのが答えです。研修で市場価値が上がった人材は、年収差100から300万円を埋められない中堅企業から大手やコンサルへ流れがちで、評価・登用の仕組みを整備できている中小は41.9パーセントしかありません(AKKODiS/商工中金)。だからこそGX Times Labは、エース1名に背負わせる体制をやめ、経営層直下に置いた兼任エースと現場アンバサダーのネットワーク型にすべきだと考えます。スキルを社内に分散させ、算定や開示の実務は外部スポット(月10から30万円)に出しておけば、誰か1人が辞めても機能は止まりません。人ではなく機能を会社に残すのが、流出対策の本質です。
取引先からCO2排出量やScope3への協力を求められたら、誰がどう対応すべきですか。
専任を置く前に、まず兼任エース1名で自社のScope1・2を測ってください。取引先要請の正体は、相手企業がサプライチェーン排出量(Scope3)を減らすために、仕入先である自社の数値を必要としていることです。求められるのは多くの場合、自社の直接排出(Scope1)と電気・熱由来の間接排出(Scope2)で、無料の見える化ツールや外部委託(年50から100万円)で対応できます。実際、取引先からCO2の把握・削減を要請された中小は21.3パーセント、約2割にのぼります(日商・東商2025年度)。GX Times Labの見立てでは、この要請対応は環境活動ではなく取引維持そのものであり、データを出せる体制が受注の前提条件になりつつあります。
GX検定や脱炭素アドバイザーなどの資格を取れば、即戦力になりますか。
資格は基礎リテラシーの証明であって、即戦力の保証ではありません。入門的な検定(GX関連の基礎知識を問う民間試験)の合格率は概ね8割前後で、取得できるのは基礎の理解レベルにとどまります。一方でサプライチェーン排出量(Scope3)の算定、CDP(企業の気候情報開示プラットフォーム)への回答、SBT(Science Based Targets、科学的根拠に基づく削減目標)の申請には、別途の実務経験が必要です。GX Times Labの結論は、資格取得イコール即戦力は幻想だ、です。中堅企業はまず兼任エースに基礎リテラシーを持たせ、申請や算定など難所だけ外部の専門家にスポットで任せるのが、最も費用対効果の高い組み立て方です。
2026年以降、中堅・中小へのGX人材の必要性はどう変わりますか。
規制で人を増やす必要はありませんが、取引対応の体制は前倒しで要ります。GX排出量取引制度(GX-ETS)は2026年度に本格稼働しますが、排出枠の保有を義務づけられるのは年10万トン以上を排出する大規模事業者が中心で、中堅・中小はほぼ直接対象ではありません。効いてくるのは、取引先からの排出量要請(すでに約2割)と、2028年度から始まる化石燃料賦課金(輸入する化石燃料のCO2量に応じ国が課す負担金)によるコスト上昇です。GX Times Labの見立てでは、取引先のどの要請に・誰が・いくらで対応するかを今のうちに決めておけば、専任を雇わずとも年300から550万円の機能設計で乗り切れます。慌てて採用するのが最も高くつきます。